中東

シリア入国

ヒジャーズ駅と満月

ダマスカスまでの飛行中,今後の予定を考える。下界のお天気やいかに?数日前の予報では雷雨だったが。
雷雨だったら初日はあまり動かずダマス泊,晴れていたら空港でレンタカー借りてそのままパルミラへ走るか,それとも反対のアレッポ方面へ走るか。最後に砂漠で辛いよりも,最初砂漠を乗り切ってしまう方がいいなーとか,はたまたそのまま先にベイルートまで行ってしまってあとでゆっくりシリアを回るか,など,案をいくつか立ててみる。

ドバイから3時間半でダマスカス着。
Emirates航空は,全席テレビ付。離着陸時には,機体の下方や前方をモニタで見せてくれる。シリア着陸前の映像では地面がやたら白く見え,「砂漠の国に雪!?」と仰天した。もちろん勘違い。地面が光って見えたのかも。石灰岩が多いせいかな?

入国管理は二人がかりでパスポートを調べられ,いつもより緊張の雰囲気。入口も狭い。というか,低い。入国カードにちゃんと書いたのに,「職業は?」「シリアでの住所は?」と厳しい。しかし,特に問題なく入国できた。
税関では逆に,申請書にまじめに書いたのに,Nothing to declareの方へ行くと,紙を見せろとも言われず,「いいよ通って」ってなかんじであっさりだった。
ロビーに出ると,出迎えの人でごった返している。まずは両替しなくちゃ。

Hertzレンタカーのホームページには,空港に事務所があると書いてあったのに,Europe Carのオフィスしかない。肝心の両替所も見つからなくて,あまり広くもないロビーを歩き回り,5往復目ぐらいでようやく発見した。Europe Carの看板に『Bank』と書かれた小さな紙切れが引っかかってるのを。Europe Carオフィスの隣は瓦礫の山で,工事中らしかったが,その場所が銀行だったのだ。Europe Carのオフィスのおじさんと目があって(というか何度もうろうろしてるから,さすがに気になったのか)「Bank?」と聞いてくれた。どうやら,レンタカーオフィスが両替所も兼ねているらしい。囲いもない,レートの看板も何もない,こんな開けっぴろげなとこで。レンタカー事務所というのさえ看板がないとわからないぐらい,何もない殺風景なデスクなのに。頑丈な檻に囲まれ,お金の受け渡しは細い隙間を通してやりとりする,そんな他国の両替屋さんのイメージに比べ,なんと大らかなこと。ここでは,強奪するような人はいないってことだ。

シリア入国カード

シリア入国カード

『Wife』『Children』の欄がある。ここに書くのは,名前?人数?妻が4人いる大家族のムスリマだと,全員は書ききれないに違いない。
NOTEの部分に,"This card is kept by its titular until he leaves the country"(このカードは彼が出国するまで保持すべし)とある。パスポート保持者は,男性(he)であるという前提なのだ。妻や子は単独ではパスポートを持たないらしい。

とりあえずUS$60を3,077SP(シリア・ポンド)にexchange。

それにしても,この空港ロビー,店が少なく,目立った看板もなく,慌しい雰囲気もない。全体的に古ぼけて殺風景で,国一番の国際空港とは思えないほどのんびりしている。

ロビーから外に出て右手,市街地へ行くバス停へ。BUSともなんとも書いていない。おそらくアラビア語では書いてあるのだろう。停留所には,人が数人たってるだけで,看板もバスも時刻表らしきものもないので,バス停と知らなければ素通りしてしまいそうなところ。
オフィスの人に,バス チケット買える?と聞くと,オフィスの奥にいた男の人二人が,「まあ座れ座れ」と中に入れてくれた。でも,二人とも英語は話せず,座ったはいいが,話をするわけでもなくお互い無言。アラビア語会話集を探して,「次のバスは何時ですか?」とアラビア語で言ってみたが,通じない。会話集を見せると,通じたようだった。私の発音が変なのか,やっぱり。
バスはすぐ来た。まだ止まってもいないバスに,人々は我先に乗り込もうとする。急いで乗らないと席がなくなるほど混んでいるわけでもなく,バスがすぐに発車してしまうわけでもない。このあせりようは一体なんなのだ?UAEのバスのように,車内が女性席と男性席に分かれてはいない。私は,真中辺りの見晴らしの良い窓際席を陣取った。後から乗ってきた若いお兄さんが,ここイイ?と言って隣に座った。

彼は何かと話し掛けてくるが,聞き取りにくい英語を話す。多分,『r』が巻き舌すぎてわからないのかも。大学2年で経済を勉強中なんだって。「私はcomputer engineerよ。」と確かに言ったはずなのに,「jobは?」と聞いてくる。もしかして,まさか,computerって単語を知らないのかしらと思い,もう一度「computer engineer」と答え,おずおずと「コンピュータって知ってる?」と聞くと,『まさか,馬鹿にしてるの?』とちょっと怒りの混じったような笑顔で,「知ってるよぉ」。
泊まるところはどうするとか,どうやって周るのかとか,いろいろ心配してくれた。「Do you need help? 」と言ってくれたのだけれど,なかなか聞き取れなくて,なんども言わせてしまった。ごめん,恥かかせたかしら? だって,そりゃこの国が初めてだという異国人に親切にしてあげたい気持ちもわかるけど,今着いたばかりでこれからどうしよっかなーとうきうきしてるあたくしに,助けはいるか? なんて愚問じゃなくって?

「No, thank you」ときっぱり答えると,「そう,君は何でも一人でできるのね…。」とちょっと寂しげだった。彼は,ダマスカスまでは行かず,途中で降りていった。
ありがと,青年。確かに心細くはあるけれど,なんとかできると思うのよ。てか,だからといって,ここで,「ハイ,私はあなたの助けが必要です」って言ってもどうしようもないじゃん?(と,その時は思ったが,そうなれば,きっとこの青年もなんとかあれこれ世話を焼いてくれたに違いないと,今になれば思う。シリア人は一般的に,旅人にはときにはおせっかいとまで思えるほど,とても親身になってくれちゃうのだ)ダマスカスの集合住宅

『バスの終点は,30分後にマルジェ広場』と思い込んでいたので,広場とも思えないごみごみした所に20分程で着いて降ろされた時には,バスが故障しちゃって乗り換えることになったんだろうか?なんて突拍子もないことを考えていた。乗り換えるバスはどこ?ときょろきょろしていると,どうやらそこが終点のバスターミナル,バラムケ(ガラージュ・バラムケ)らしかった。
まごまごしていると,さっそくタクシーの運ちゃんの餌食になった。「ヒジャーズ駅に行きたいの。」と言うと,「100でどーだ」と,とんでもないこと言う。いかに私でも,市内に入ってきたことはわかってる。ここまでバスで25シリアポンドなのに,その距離のおそらく1/4もないであろう駅まで,タクシーとはいえなんで4倍の値段で行かなければならないのだ。すると,「50」とすぐに半額になった。ひどいふっかけ方するなあ。もういい,そんなのには乗らないよーだ,セルビス(乗合タクシー)に乗ればどうせもっと安いんだから,とキッパリはねつけてると,さらにその半額の25になった。これからセルビスを探すと同乗者を待ってまた時間がかかる,最初だからまあいいかとそのタクシーに乗ることにした。「25以上は出さんからね」と念を押すが,おじさんは曖昧な顔をして荷物を持っていく。
ここのタクシーって後ろの席に乗るのかな?前に乗るのかな?とりあえず助手席に座ってみる。回り道されないように警戒して地図を見ていたが,結局回り道されたんじゃないかという気がした。行き先はヒジャーズ駅だと言っているのに,しきりにどこのホテルかを聞いてくる。ホテルのランクから判断してさらにふっかける気なのか,自分のコネのあるホテルに乗り換えさせる気なのか,どちらにしろ迷惑な話なので,一切答えず,頑として「ヒジャーズ・ステイション」を繰り返し,あとはずっと黙っていた。おじさんもあきらめたらしい。
ヒジャーズ駅に着くと,メーターは12.50だった。これを最初は8倍の100ポンドって言ってたんだから,ひどい。両替したばかりで細かいのがなく,50シリアポンド札を出すと,おつりがないからと30しか返してくれなかった。ごうつくタヌキめ。外国人狙いのタクシーとは,得てしてこんなものなんだろうけれど,嫌な印象だなあ。毎度のこととはいえ,少しくぼむ。
(後日,バラムケ・ターミナルからは,徒歩でも十分歩ける距離と判明した。帰国時にヒジャーズ駅周辺からタクシーに乗ったときは,8シリアポンドしかかからなかったところを見ると,やはりタヌキオヤジはちょっと遠回りしたに違いない)

気を取り直し,スルタンホテルへ。思ったより質素だったが,安心できる宿だというので,部屋が決まって一安心。とりあえず外に出てみる。

Trojan horse(トロイの木馬。有名なコンピュータ・ウィルスの一種)という,なんとも恐ろしいネーミングのインターネットカフェに入ってみた。
キーボードは普通の英語キーボードだけど、アラビア文字が赤くその右下に、ちょうどひらがなのあるあたりに入っている。キーを押すと,アラビア文字が次々画面に現れて,不思議な感覚。
15分ごとの料金が表示されていたが,25分使ったら,残り5分分をきっちり返してくれた。もう一人いたお客の女性は,ちらっと見えた画面に日本語が表示されていたので,日本人だったみたい。無事に到着した旨,家族とTOMBOY BBSに打電する。

まずは,ヒジャーズ駅周辺をうろうろしてみる。
ここは観光ポイントだから,写真を撮っても大丈夫だろうと,カメラをとりだした(ダマスカス入国の日の写真が少ないのは,不用意に写真を撮っていると,街中に潜む秘密警察に不審人物とみなされ連行されてしまうと恐れていたからなのだ)。
通行人に,「あれって東洋人?」みたいに指差され,うち一人が「ニーハオ」と声かけた。無言で見つめ返したけど,ニーハオって答えてあげればよかったのかなあ。ニーハオが中国語ってこと,中国と日本はアジアの別の国だってこと,きっとわかってないだろうなあ。

駅前のシュワルマ屋さんで,夕食。おじさん,クリームつけてさらに肉を大盛りにしておまけしてくれた。で,これこれここに座りなされ,と店の椅子を勧めてくれた。アラビア語会話集を探して,「ラジャーズ(おいしい)」って言ったのに,通じてないみたい?ラジャーズはエジプト方言なんだろうか?交通整理中のおまわりさん

街中には信号があまりなく,ロータリー形式。これは,シリアが昔,フランスに統治されていた名残なのだろう。おまわりさんが,ロータリーの中で交通整理している。車の波はどんどん押し寄せるので,渡るタイミングが難しい。でも,見てると足の悪いおじいさんでも子供でも,するすると問題なく渡っている。
ヒジャーズ駅前に白い杖を持った人がいてハッとしたが,おまわりさんが誘導していた。しばらく同じ方向だったので,何気なく見ていると,周りの人たちがさりげなく,ごく自然に腕を引いたり車を止めたりしていた。国内随一の大都会でも,他人を気にする余裕は十分にあるということだ。根は親切な国民性を垣間見たようで,なんだかほっとする。

ホテルに戻ると,受付は,愛想の良い年配のおじさんに変わっていた。シリアで発掘調査をしている東大の教授が,ここを定宿にしているらしく,おじさんは,その教授からの寄贈の時計と本を見せてくれた。アレッポの北の方で10000年前のネアンデルタール人の子供の骨を発掘したんだって。1万年だって!?すごいねえ。その東大教授のおかげで,おじさんも親日家になったのかな?おじさんは,その遺跡の場所を教えようとして,食堂に貼られている地図の前に私を連れて行った。そのシリアの地図は,私の本の地図とは国境線の位置が微妙に違う。イスラエルとの国境地帯を互いに自国の領土だと主張しているのは知っているけれど,トルコともそうなんだ?地中海に面した海岸線のトルコとの国境線が,壁の地図ではガイドブックの地図よりも北(トルコ)寄りに引かれている。そうは言っても,その地図を信じてアレッポから西へ突き進んでも,多分国境に阻まれてしまうのだろう。なんだか不思議。
…と思っていたけれど,日本の地図はどうだ?北海道の東のロシアとの国境線は,日本の地図とロシアの地図とでは位置が違う。なるほど,北方領土問題と同じような問題が,どこの国にもあるんだな。

おじさんに,東大教授著作の本を借りた。二晩で読んでみようと思ったけれど,眠くて眠くて,21:30には寝てしまう。

 

コラム:トイレ事情

なぜかくずかごに人の顔初めてシリアのトイレを使ったときに,ティッシュはくず箱に,との貼り紙があった。ははあ,これが噂の,と思った。事前にインターネットで集めたシリア情報に,『シリアでは紙を流さずに備え付けの箱に入れましょう』というのを見つけて,トイレの使用方法に少々不安を感じていたのだ。

シリアのトイレは,和式トイレに似ていて,前方の金隠しがない形である。その穴にしゃがんで,使用後は紙を使わず,水で洗う。だから,紙の代わりに蛇口や蛇口につながれたホースがあったりする。このとき,イスラム教徒であれば,『不浄の手』とされている左手を使って体を洗う。手動ウォシュレットだ。汚れさえ落としてしまえば,乾燥したこの地域ではすぐに乾いてしまうから,水分を拭き取る必要はない。シリア式トイレ
もちろん,不慣れな異教徒は,紙を使っても構わない。但し,紙を使うことが想定されていないつくりのトイレに紙を流すと排水管が詰まってしまうため,紙は流さず,屑箱にいれなければならない。観光地には大抵,外国人用に紙と箱が置いてあったりするけれど,ない場合もあるので,ティッシュは持参した方が無難カモ。

水ではなく,地域によっては,砂漠の砂を使うという話もある。確かに,砂漠の砂は粒が細かく,さらさらしていてそれほど痛くはなさそうだし,乾けばぽろぽろ落ちてくるから,慣れれば爽快かも!?

郷に入っては…ということで,私も,左手を使ってホースの水で洗おうとしたけれど,慣れないので難しい。ま,密室でどっちの手を使おうが構わないし,そもそもイスラム教徒でもないんだからいいか。
そういえば,左手がご不浄の手ってことは,トイレ以外で左手を使ってはいけないのだろうか?イスラム教徒と接するときに,握手や物を渡すのに左手を使わないように,という注意書きはガイドブックなどで見かける。でも,全て片手で事足りるわけじゃないし,両手を使わないと作れない料理とかあるんじゃない?パンをこねたり焼いたりするのに,左手は使わないんだろうか?

 

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<このページの最終更新日:08/10/30 >